去年後半から今年初めにかけて低下を続けていた日本やドイツなど主要国の長期金利だが、4月後半頃から逆に上昇に転じている。これは金融市場に今後何らかの動きが起こることの予兆だろうか?
今年の史上最低値から反転
最初に簡単に説明すると、長期金利というのは10年物国債の金利のことだ。そして国債の金利とは、国債の価格とは反比例関係にある。国債が買われて価格が上昇すると、金利は低下する。反対に国債が売られて価格が下がると、金利は上昇していく。財政危機にあるギリシャの国債は買う人が少ないため価格が低下しており、金利は反対に上昇している。つまり国債金利の過度な上昇は良くない状態なのだが、適度な範囲なら上昇もそれほど問題ではない。その長期金利だが、日本やドイツなどの主要国で、去年から今年初めにかけて急低下していた。金利低下の背景にあるのは日本やユーロ圏が行っていた金融緩和政策だ。日本では去年ずっと長期金利が低下し、今年1月には0.2%を割る史上最低値をつけた。また長期金利はドイツでも低下。ユーロ圏が量的緩和を開始したのは今年の3月だが、去年の時点でも他の緩和政策を次々と実施していた。それを背景としてドイツ国債の金利は低下し、今年4月中旬には0.1%未満のこちらも史上最低値を更新した。
しかしそれを底にしてドイツの長期金利は上昇に転じ、4~5月にかけて0.7%付近まで上昇。5月後半にはしばらく下げたものの、5月末から6月になってまた0.7%以上まで上昇した。
長期金利の上昇は日本も同じで、1月につけた史上最低値からゆるやかに上昇し、6月には0.5%近くまで戻った。アメリカの長期金利は今年に史上最低を更新したわけではないが、1月の1.7%から現在では2.3%台まで上がった。このような上昇について、市場関係者はいくつかの説明を提示している。ドイツについてはECBの金融緩和政策が3月の量的緩和開始をもって一旦打ち止めとなり、これ以上新しい緩和策が出てくる可能性が低いことが、長期金利上昇の一因となっていると言われる。特に最近になって原油価格の下げ止まりから、ユーロ圏のデフレ傾向に歯止めがかかっているのも大きい。5月のユーロ圏消費者物価指数は、0.3%上昇で6ヶ月ぶりにプラスになった。このためECBによる追加緩和の可能性が遠のいている。またギリシャ問題が逼迫しているため、同じユーロ圏のドイツ国債を売る動きが広がっているとも言われる。ドイツ国債は比較的安全と見られていたものの、ギリシャの財政破綻の可能性がだんだんと高まっており、そうも言っていられなくなっている。
これまでのところ長期金利の上昇が他の金融市場に波及している様子はない。しかし可能性としては影響が広がることも考えられる。広がる影響の可能性の1つは、日本など他国の国債も売られて金利が上昇することだ。 さらに国債金利の上昇は株式市場にとっては売り材料となるので、株式市場への影響も考えられる。ただそれは現在の水準よりもさらに上昇した場合で、そこまで上がるかどうかは分からない。しかし去年は一貫して下がっていた長期金利が上昇に転じている以上、金融市場に去年までとは違う動きが出てくるのかもしれない。