今までのように気軽にカネを振り込んだり、大きな買い物をしたりすると、目を付けられてしまうかもしれない。
「引っ越しのときの手続きがすぐに済むようになるとか、確定申告が楽になると聞くと、便利なことばかりのように思えます。
しかし今後、マイナンバーと預金口座や証券口座、不動産の保有状況などが結び付くようになれば、個人の資産はすべて国によって丸裸にされるのです」
こう語るのは、弁護士の水永誠二氏である。
今から半年後の10月、日本に住む全ての人に1枚のカードが送られてくる。
近い将来、日常生活の様々な場面で、そのカードに記された「12ケタの番号」が必要になる。
「マイナンバー」—かつて「国民総背番号制」と呼ばれていたものだと言えば、ピンとくる人も多いだろう。資産運用に詳しい税理士が言う。
「今月10日、預金口座を新設する際に、マイナンバーの登録を任意で始めることが閣議決定されました。最初は任意ですが、数年で強制申告制になる見通しです。
行政にとって、マイナンバーと資産を関連付ける意義は2つ。ひとつは、現在の日本は自己申告にもとづいて税金を払う『申告納税』が原則ですが、
これが『賦課課税』、つまりある日突然税務署が『あなたはいくら税金を納めなさい』と言ってくる方式に変わる。
もうひとつは、現状では『フロー』つまり所得や収入に対する課税だけなのが、『ストック』つまり預金や株式などの資産にも課税されるようになるということです」
要するに、ひとりひとりに固有で一生変わらない「12ケタの番号」を与え、納税状況、持っている口座や資産などの情報を関連付ける。
これらの情報はあなた固有の番号とともに、役所や税務署などの当局によってデータベース化されるのだ。前出の税理士が続ける。
「例えば、親の口座から子供の口座にカネを振り込んだ瞬間に『贈与が発生した』とみなされ、贈与税が弾き出されて源泉徴収されるといったことが起こるようになる。
また、資産を持った人が亡くなった時には、マイナンバーに関連した不動産や株式保有状況にもとづいて自動的に相続税が計算され、遺族にはすぐ納付書が届くのです」
政府は、マイナンバー導入の目的を「社会保障、税、災害対策の分野で効率的に情報を管理」し、「複数の機関に存在する個人の情報が同一人の情報であることを確認する」ためとしている。
平たく言えば、国民一人一人がどれだけの収入を得て、どれだけの資産を持っているのか、国がいつでも見られるようになる。
ゆくゆくは、マイナンバーをもとに国が把握する範囲は、不動産や株式・債券といった有形無形の資産ほとんどに及ぶとみられる。
そうして税金の取りっぱぐれをなくし、年金や生活保護の不正受給にも目を光らせようというわけだ。
「脱税や不正受給をしている悪い奴らが取り締まられるのだから、いいことじゃないか」と思うかもしれない。
しかし、それは甘い。従来ならいちいち問題にならなかったようなカネのやりとりも、逐一監視される時代が目前に迫っている。
「主に問題にされるのは、カネの『出どころ』がどこか、ということです。
例えば、孫の名義で作った銀行口座にお爺さんがせっせと貯めて、数百万円になったとします。今までは特に何も言われませんでしたが、
マイナンバーが預金口座に関連付けられると、そのカネが誰のどの口座から出たものかすぐに分かる。
そうなれば、『これは贈与じゃないか』ということになり、贈与税がかかってくるわけです」(税理士法人アーク&パートナーズ代表で税理士の内藤克氏)
マイナンバーの運用が本格的になった暁に、おそらく最大の問題になるのが、こうした家族間などの「身近なカネのやりとり」である。
現行法では、贈与税は年間で110万円以上の財産を受け取ったときに発生する。カネの流れがマイナンバーで追えるようになれば、
「未成年の口座に多額の入金があったが、これはどこの誰の口座から出たカネか」「収入の少ない若者がマンションを購入したが、
資金の出どころを辿るとどの口座か」といったことまで、税務当局がその気になったら詳しく調査・追跡することができる。
カネの出所まで遡って徴税するとなれば、事実上の「資産課税」が始まると言っても過言ではない。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42556