ブラジリアは新型コロナでの経済活動再開のリスクを示す事例研究と言える。 人口10万人当たりの感染者数は現在2133人。国内の他のどこの主要都市よりも多い。 厚生省統計によると、サンパウロやリオデジャネイロといった大都市の2倍超だ。
この一因は、ブラジリアで行われる検査数が他よりも多いことなのかもしれない。 所得は人口1人当たりで同国一の高さだからだ。
だが専門家は、最近の爆発的な感染急増は明らかに、早過ぎた経済再開によると話している。 スポーツジムと美容院は今月7日に再開。バーやレストランはブラジリア連邦地区長官の命令で13日からの週に再開する予定だ。
市衛生評議会のルーベンス・ビアス委員は「この措置がブラジリアの何千人もの住民の死につながるだろう」と警告する。 死者の増加、さらに集中治療設備の不足で医療崩壊に近づいていることから、完全なロックダウン(封鎖)が必要だという。 地区長官が、経済上の理由で再開を求める大統領の圧力に屈しているとも批判する。
ボルソナロ氏は、新型コロナの健康リスクよりも封鎖による経済的影響の方が深刻だと主張してきている。
8日にはブラジリアの経済再開を認める政令を裁判所が差し止め、これに対しブラジリアは上訴した。 その後に長官は、セイランディアと、やはりホットスポット化した隣接のソルナセンテで、不要不急の移動を規制すると宣言した。
だがブラジリアの開発当局は、米国やスイス、オーストリアよりも人口比の検査件数が多い点を主張。 ブラジリアで感染の拡大は続いているが、感染者1人からの感染率は4月上旬の2.1から1.2に鈍化しているとの立場だ。
人口300万人と国内3位のブラジリアは、今年3月5日に新型コロナの初の感染が報告された。英国とスイスから帰国した52歳の女性だった。 同月24日に最初のコロナ死者が確認されて以降の2カ月間では100人と、死者数の増加はゆっくりだった。
ところが5月27日にショッピングモールを再開した後の1カ月間では、感染者と死者の増加スピードが5倍に。 7月6日の1日当たりの新規感染者は2529人と過去最多になり、死者累計は726人を超えた。
セイランディアの主要病院の救急病棟で働く看護師は「状況は混乱していて、生き地獄。感染増加が止まらない」と話した。 病院では医師と看護師、さらに救急車も不足しているという。
衛生評議会のビアス氏は、感染は富裕地域のブラジリアから近郊に広がっていると指摘。 近郊の労働者はしばしば、ひしめき合った公共交通機関で1時間かけてブラジリアに通勤するという。
ソルナセンテのある住民は「ここは実に悲惨。この数日で感染が大きく増えている」と語った。
ブラジリア中心部でメイドとして働くノグエイラさんは、自分の家の近所のバーはマスクなしの人で溢れ、 週末のパーティーにも無頓着に興じていたと話した。一方で、銀行は新型コロナ対策で政府の所得補償金の臨時支払いを受ける行列で混み合っているという。
ビアス氏は「選挙や経済の利害関係者は、命を救うことよりも金儲けに関心を持つ」と述べた。 https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/07/5-104.php