「米国が利上げに踏み切れば、日米間の金利差が広がるので、マネーはドルに向かう。 米国の利上げ期待が続く限り、ドル円相場は1ドル=120円をはさんで上下数円の幅で動いていく」(大手証券為替アナリスト) これがよく語られる、ドル円相場の2016年の市場予測だ。が、マーケットの最前線ではいま、まったく別の予測が急浮上している。
米国が利上げをしても、円安にはならない。’16年は円高転換のアニバーサリー(記念年)になる、というのがそれ。経済アナリストの中原圭介氏が指摘する。
「利上げが円安を誘引すると考える人は多いが、実は間違い。むしろ、過剰に進んだ円安を修正し、為替トレンドを円高反転させる引き金となる可能性が高い。振り返れば、米国が’12年9月にQE3と呼ばれる量的緩和第3弾を開始した直後に円高は終わり、円安へ突入していった。今度はこれと逆。利上げが開始される時が円高の始まりとなる。利上げ開始前後の1ヵ月以内に円相場の急伸が始まると見ています」 米国の利上げは早ければ’15年12月。となれば、この11月から来年1月にかけて、さっそく円高シフトが始まるわけだ。 「その際には、1ドル=100~105円がひとつのターゲットになると見ています」(中原氏) 現在の1ドル=120円水準から一気に100円近辺まで急騰するのだから、「超円高」の巨大インパクトが間近に迫ってきたといえる。
「米国の大手ヘッジファンドで、円安トレンドに賭けていたことで有名なフォートレス・インベストメント・グループが、10月にファンドを閉鎖すると発表しました。まさにこれから起こる『円高転換』の予兆のような事件。 来年は機関投資家たちがこれまでためこんだ円売りポジションを一斉に転換し始めることになりそうです。きっかけは利上げ。私は3月と見ています」(マーケットアナリストの豊島逸夫氏)
米国が利上げに踏み切らなかったら?
では、米国が利上げに踏み切らなかったら円高にならずに済むのかというと、そう単純ではない。米国が利上げできないと見る市場関係者は多いが、彼らは同時に次のように口を揃える。利上げを断念しても、’16年が「円高イヤー」になることは避けられない??。FXプライムのチーフストラテジストである高野やすのり氏が言う。「米国の景気サイクルがすでに天井をつけている状況下で、FRBが金利を上げるのは正気の沙汰ではない。イエレン議長は利上げのタイミングを逸した。為替はどうなるのかといえば、まず、’16年3月頃までは利上げ期待が残る中、ドルは堅調に推移。が、4月にも利上げができないと、『この先も利上げはないのでは』と市場が疑い出す。夏頃には4-6月期の決算が発表され、業績悪化を確認。市場は『利上げは不可能だ』と見切りをつける。ここから一気にドル売り・円買いが進み、最も円高になるのは8月あたり。1ドル=100円程度までいくでしょう」
RPテック代表の倉都康行氏も言う。「いまFRBが無理をして利上げをすれば、米国の景気後退の時期を早めることにしかならない。仮に利上げができたとしても、それは1回限りと市場は考え始めている。となれば、円高シフトに向かうのは自然な流れ。1ドル=110円割れの円高は十分にありうる」
つまり、米国が利上げをしてもしなくても、円高になる。そもそも、2016年は、利上げ以外にも、相場環境を円高に振れさせるイベントが目白押し。日本総研副理事長の湯元健治氏が言う。「来年は世界同時不況の可能性がある。震源は米国で、仮に米経済が急悪化した場合、即座にブラジルなどの新興国に波及。ロシアなどの産油国も道連れとなり、最悪の場合、世界同時不況に突入する。この際には、安全資産とされる日本円とスイスフランにマネーが殺到し、1ドル=100円に近付くこともありうる」ニッセイ基礎研究所チーフエコノミストの矢嶋康次氏も指摘する。 「地政学上の最大リスクであるシリア問題が要警戒です。仮に来年米国が地上軍を投入して紛争が本格化すれば、マーケットへのインパクトは計り知れない。リスク回避のために『有事の円買い』が発生し、円が急伸することになるでしょう」2016年、円安は終わる。