ソフトバンクグループの孫正義社長に向けた銀行の視線が厳しくなりつつある。米ウィーワークなど新興企業投資の失敗が表面化し、10兆円規模のビジョン・ファンドを中心とした孫氏の投資手法に疑問符が付いたからだ。巨額投資を繰り広げる孫氏と金融機関の二人三脚の歩みに変化の兆しが出てきた。
ソフトバンクGは最大3000億円の借り入れについて国内3メガバンクなどと協議している。ある大手行幹部は、追加融資をする前に納得できるウィーワーク再建プランを提示してほしいと述べた。別の銀行の役員も、追加融資には慎重さが求められ、高評価のスタートアップ企業へ多額投資を行うという孫氏の手法に疑念を示した。2人は情報が非公開のため匿名で取材に応じた。
国内大手行は1982年から孫氏の資金調達を支えており、融資規模が最大のみずほフィナンシャルグループと三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループの融資残高は2019年3月時点で約1兆4000億円に上る。複数の関係者によれば、ソフトバンクGは銀行団と11月26日に面会し、ウィーワーク再建の現状などについて説明したが、融資条件などについては話し合わなかったという。各行の広報担当者は、個別の顧客企業についてはコメントできないとしている。ソフトバンクGの広報担当者も融資交渉の詳細についてコメントを控えると述べた。
ソフトバンクGは携帯電話事業を中心に安定した収益を上げてきたが、ビジョン・ファンドの設立を経て、投資会社としての色彩を強めている。ウィーワークや米配車サービスのウーバー・テクノロジーズなどの価値下落により、7-9月期は7000億円を超える営業損失を計上。14年間で初めての赤字となった。DZHフィナンシャルリサーチの田中一実アナリストは、「銀行は孫さんの経営力を見込んで融資をしているが、ウィーワークでほころびが見えたことで、それを支えてるものの一つが消えてしまった」と指摘した。
ブルームバーグの集計によれば、ソフトバンクGには14兆円の長期債務があり、非金融企業では世界で米AT&Tに次いで大きい。資金繰りが危機に陥った場合、ソフトバンクGだけではなく、金融機関の信用を揺るがしかねない規模だ。
立教大学ビジネススクール教授で投資銀行での経験を持つ田中道昭氏は「これまで邦銀にとって、世界のトップレベルの金融機関と親しくしてきたソフトバンクと取り引きすることは名誉なことだった」が、「ウィーワーク問題を契機にリスク要因が顕在化し、懸念を示す向きも出てきている」と指摘した。
低金利環境で収益源を求める金融機関にとっては、ソフトバンクGは重要顧客で、簡単に縁を切れない事情もある。融資や企業の合併・買収(M&A)への助言に加え、起債や新規上場でも収益を上げられる。孫氏がみずほFGの前身である第一勧業銀行から融資を引き出したのは24歳の時。その後40年にわたり、大胆だが信頼できる顧客と位置付けられてきた。調査会社フリーマンによれば、ソフトバンクGが15年以降、世界の金融機関に支払った手数料は19億ドル(約2100億円)を超え、ほとんどが日本勢へのものだ。孫氏がオーナーを務めるプロ野球球団の福岡ソフトバンクホークスが日本一を決めた10月、汐留本社には三井住友FGのSMBC日興証券の清水喜彦社長など国内外の金融機関から贈られた祝花が並んだ。
多額の借入金によりソフトバンクGの信用格付けは低く抑えられており、銀行はより高い金利を求めることができるとブルームバーグ・インテリジェンスの田村晋一アナリストは指摘する。スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)ではBB+と投資適格より1段階低く、7段階高いAA-のトヨタ自動車とは対照的だ。ソフトバンクGには約4兆3000億円の現金があり、社債による資金調達にも積極的だ。また保有するアリババ・グループ・ホールディング株の価値は15兆円規模に上り、資金調達の裏付けとなっている。
ただ国内主要行との関係が冷え込めば、10兆円強のビジョン・ファンド2を立ち上げている孫氏にとっては広範囲で影響が出る可能性がある。ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次チーフエコノミストは、「メガバンクと付き合いがあると信用になる」と指摘、「そっぽを向かれたら資金調達は難しくなる」と語った。