働いても収入が少なく、食べていくのにも苦労する。お金がないから勉強をあきらめる-。そんな貧困層がじわりと広がっている。
かつて「一億総中流」といわれ、社会や経済の基盤をつくってきた分厚い中間層が、やせ細りつつあるようだ。
一度中間層から脱落すると、再挑戦が難しいともいう。貧困の固定化や家族内での連鎖も懸念されている。
これが、私たちの目指す豊かな社会であるはずがない。どうやって貧困層の増加を防ぎ、社会の安定を確保していくか。各党は具体的な政策を競い合ってほしい。
▼母子家庭は特に深刻
貧困拡大の一端が厚生労働省の「国民生活基礎調査」で分かる。2012年時点で国民の平均的所得の
半分に満たない所得の人の割合を示す「相対的貧困率」は16・1%に達した。先進諸国では貧富の差が最も大きい国の一つ-。それが日本の現実だ。
貧困世帯で暮らす18歳未満の子どもの割合を示す「子どもの貧困率」は16・3%と、過去最悪を更新した。
特に母子家庭を中心とした大人1人で子どもを育てる世帯では、54・6%が相対的貧困率に含まれるなど、深刻である。
国民の所得格差が広がり、そのしわ寄せが子どもたちや母子家庭に、より端的に表れている。
文部科学省によると、12年度の大学や短大の中退者は「経済的理由」が20・4%と最も多く、07年度の前回調査より6・4ポイント増えた。家計の困窮が、教育の機会均等にも影を落としている。
非正規労働者も増加が続き、今年7~9月期で約1952万人と被雇用者の37%を占める。
生活保護の受給世帯は今年9月で約161万世帯と過去最多を更新した。
貧困層は株高や円安の恩恵とはほぼ無縁だ。逆に輸入食材の値上がりなどで日常生活に打撃を受けやすい層である。政策や制度上の支援が必要だ。
貧困や格差はこの20年来拡大が止まらない。原因は明らかだ。
バブル経済の崩壊や国際競争の激化を受け、企業はコスト削減のため正社員を減らして非正規労働者を多用した。政府も規制緩和で派遣労働の増加を後押しした。安倍晋三政権はさらに、自助や自立を重視する。生活保護は給付水準を引き下げ、保護申請の要件や親族の扶養義務を厳格化した。
確かに政府がこの間、貧困対策を講じなかったわけではない。
子どもの貧困問題に関しては、1月に施行した「子どもの貧困対策推進法」に基づき8月、施策の大綱を閣議決定した。
衆院選で各党も「幼児教育の無償化」「待機児童の解消」「子ども・子育て支援制度」などを公約に掲げる。
だが、大綱も公約も新味に乏しく、期待感は高まらない。工程表や財源などの説明も尽くしておらず、実効性が見えにくいからだ。
子どもの将来が生まれ育った環境で決定的に左右されてはならない。苦境にある母子家庭の支援は急を要する。児童扶養手当の拡充などをもっと議論すべきだろう。
▼雇用対策は対立軸も
雇用対策では対立軸も見える。
自民党は公約で「正規雇用への転換を果断に進める」としたものの、その道筋は曖昧だ。
政府は新しい成長戦略に労働時間規制を適用しない対象の拡大を盛り込んでおり
労働者派遣法を改正して派遣労働者の長期使用に道を開くことも検討している。
これに対し民主党、維新の党、生活の党などの野党は「同一労働同一賃金」の実現を掲げた。
非正規労働者の処遇改善に向け働く土台の安定を図るのが狙いという。
若者らの貧困を防ぐにはどんな政策が効果的か。職業訓練の支援や最低賃金改定などの課題も含め、活発な論議で有権者に判断材料を示してもらいたい。
生活困窮者自立支援法が来年度から施行される。失業や病気で生活に困った人の
自立を自治体で支える仕組みだが、就労訓練の受け皿確保など態勢づくりには課題が多い。制度をどう生かすかについても各党の考えを聞きたい。
貧困は単に所得など経済的な格差だけの問題ではない。長期化し固定化すれば社会からの孤立を生み、社会全体の安定にも影響しかねない。貧困の克服は最優先課題の一つとして問われるべきだ。
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/131376
貧困の拡大 克服に向け具体策を競え